企業が生徒や学生に求める資質能力で,毎回上位に上がるものにコミュニケーション能力があります。

これほどまでに,コミュニケーション能力と言われると言うことは,学校でその能力を身に付けることが出来ていないと言えるのでしょう。

このコミュニケーション能力というものが具体的にどんなものを指すのかは今回置いときまして,私が学校現場で実践していることからコミュニケーションに関する大きな気付きを得た経験があったのでご紹介します。

生徒がコミュニケーションを教えてくれた

私は高校の教員をしています。そこで,1年生に1年間,週1のペースでワークショップ型の授業をしています。

このワークショップでは,クラスの関係性が良くなるように,発想力がつくように,自分の意見が言えるように,などを育てることを目的として実施しています。

2年前に行ったワークでとても考えさせれるコトに出会いました。

コミュニケーションについて考えてもらいたいと思っていた私は,当たっても痛くないボールを用意し2人一組でこちらの指示のもと色々なキャッチボールをしてもらいました。

相手を思いやった普通のキャッチボール,相手にボールを強くぶつけてみる,わざと取れないようなボールを投げる,相手が投げたボールを無視して取らないなど,色々なことをやってもらいました。

一通りやってもらったあと,どれが一番嫌だったかを生徒に手を挙げてもらいます。

私の予想だと「相手からボールをぶつけられるのが一番嫌だ」と答える生徒が一番多くなると思っていました。

これには一応意図があり,「相手が嫌がるような言葉をぶつけるのは良くないことだよね,だから皆さん言葉には気をつけようね」と繋げていこうと思っていたのです。

では,実際の意見はどれが一番多かったでしょうか。予想をしていなかった「投げたボールを無視して取ってくれない」が一番多い意見となりました。

そこで,私はハッとしました。いじめの体験談でも,一番辛いのは嫌な言葉を浴びせられるよりも,無視をされることのほうが辛いということを聞いたことがあります。

人間はコミュニにケーションを取りたがる生き物です。特に,クラスという閉鎖空間の中で孤立するというのは本当にしんどいのではないかと推測することができます。

コミュニケーションってどうやればいいの?

キャッチボールのワークの次の授業で,コミュニケーションに対する生徒の考えを知りたくなった私は,アンケート機能を使った対話的な授業を実施しました。

スマホとGoogleフォームを使ってリアルタイムに回答をモニターに写しながら,回答に対する私の考えを生徒に伝えるという形で。

なんとなく思いついた「お化けはなぜ怖い?」という,コミュニケーションとは全然関係のない質問から,「怖いものは何?」に続き,人間関係に怖さを感じている意見を拾い,少しずつ「クラスが良くなるには?」という質問や,「そのためにはどうしたらいいか?」など核心に近づく質問をしていきました。

そこで導き出された結論は,コミュニケーションが得意だと思っている生徒も,苦手と感じている生徒も両方とも「笑顔で頷いて聞いてくれればそれでいい」というものでした。

こんな簡単なことでコミュニケーションはうまく回るんだなということを生徒に教えられました。逆を言えばこんな簡単なことが,実は難しいのかもしれませんね。

コミュニケーションのコツは受け手にある

コミュニケーション能力を鍛えるというと,今までの私は,話し手ばかりに注力していました。面白く話す,興味をもってもらえるように話す,納得してもらえるように話す。

しかし,コミュニケーションのコツが受け手にあるのだと考えれば,生徒に身に付けてもらうのも,指導法も簡単になります。

一言「笑顔で頷いて聞いてくれればいい」と言えばいいのですから。

少なくても私はこの気付きで肩の荷がスッと軽くなりました。そして私は,この言葉に愛を感じます。

企業が求めているコミュニケーション能力がこれだけ出ないのは十分承知しています。

しかし,コミュニケーションの最初に愛が無ければどんなことも上手くはいかなくなるでしょう。

生徒に,同僚に,保護者に,家族に,地域に,社会に…,笑顔で頷く愛を持って接していきたいと思います。