学校と言えば勉強などを教える場という側面もあり、いわゆる「ティーチング」がメインな印象があります。
でも最近は、時代も進んでオンライン授業など新しい取り組みも出てきたり、学校も徐々に新しい要素が増えてきています。
今回は「教師のための叱らない技術 コーチングを生かして子どもを育てる」という本の著者で一般社団法人日本親子コーチング協会代表理事の原潤一郎さんにインタビューをして、コーチングやコーチングを生かしたクラス運営などについてお聞きしました。
このインタビューは2021年3月に実施されたインタビューです。
原 潤一郎
一般社団法人 日本親子コーチング協会 代表理事
コーチングをメインに、PTA・学校などさまざまな場所で保護者や、子どもたちに年間200回ほど講演。著書に『教師のための叱らない技術』、『魔法のピットインカード』がある。
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原潤一郎さんの自己紹介
日本親子コーチング協会の原 潤一郎と申します。代表理事とかって言うと偉いおじいちゃんっぽい感じだと思ってたんですけど、自分がまさかその肩書きになるとは思ってなくてですね。
代表をやっていて、みんなから代表理事から代理代理って言われたりもしてるんですけど、主にはコーチングを使ってお母さんや子どもたちの夢のサポートですね。
お母さん・親御さん向けのコーチングスクールや子どもがコーチングをできるようになるっていうスクールをやっていて、だいたい年間200回くらいPTAや学校関連でいろんなところに呼んでいただいて講演会をやらせていただく形で仕事をしています。
その他に本を書いていて『教師のための叱らない技術』って本や、一般の方がコーチングをもっとやりやすくするために書いた『魔法のピットインカード』という本があって、そういった本を書かせていただいているのが主な仕事になってます。あと2歳のかわいい子どもがいます。
原さんっておいくつなんですか?
3月11日で36になったんですが、震災の日が誕生日でした。
3月11ってそうなんだなーって思っていました。で、今は2歳のお子さんができて…。一生懸命、今日保育園から帰ってきますね。
いつも送り迎えをやってます。
意外と主夫な感じですか?
超主夫ですね。僕の夢はミスターママと呼ばれることが夢なんで。
コーチングを始めたキッカケ
ドラえもんのように誰かが困ったときの力になりたい
ミスターなのにママはなんか決まってていいですね(笑)。
原さんといえばコーチングなんですけど、どうしてコーチングをやろうと思ったのかキッカケを改めて教えてもらってもいいですか?
コーチングっていう言葉自体を初めて知ったのは大学3年生くらいになりますね。
ちょうど就職活動の時期に父から「おい、潤。これ知ってるか?」ってコーチングの本を見せてもらったんです。
父は大手の会社で人材開発の仕事をやってたんで、海外からのそういうものには敏感だったんですよね。そこで初めてコーチングを知りました。
本を読んでみたら「なんかこれ、めっちゃ俺がやりたかったことや」みたいな感じで、すごいワクワクしたんです。
なんでこんなにワクワクしたのかなって思ったら、ちょっと子どもっぽい夢かもしれないんですけど、昔から「ドラえもんみたいな男になりたい」って思ってたんです。
おお、ドラえもん。
そうそう、ドラえもんみたいになりたいなって思っていました。
ドラえもんってのび太くんとか誰かがピンチの時にふしぎなポケットから何かを取り出してその人の悩みだったりとか問題を解決してあげる人っていうのが僕の印象だったんです。
子どものうちにコミュニケーションのベースを身につける必要があると思った出来事
僕も誰かが困ったときに力になれる人になりたいって思って、コーチングにものすごいときめきを感じたんです。
なんでそうなったかの原点ですけど、僕が小学校3年生のときにすごい仲いい友達がいてですね。その子とは「大人になってからもずっと友達だよ」とか「一緒に夢かなえていこうぜ」って、ブランコに乗りながら一緒に語ってた仲だったんです。
だけど、彼のお父さんが仕事で転勤することになってしまいました。
寂しいなって思いながらも「これからもずっと友達だからね」って言ってお別れをしたんです。
そのあとも手紙のやり取りを継続的にやってたんです。当時はメールもなかったんですが、半年くらいたった頃かな。パタッと彼からの手紙が届かなくなってしまったんです。「あれどうしたんだろうな?」と思ってちょっと心配になって、電話をかけたんです。
うんうん。
ある時、電話で「もしもしジュンだけど」って出たらその子のお母さんが出てくれたんですよね。
「じゅんです。おばちゃん元気?何とかくんいる?」っていうふうに聞いてたら僕の声を聞くなり突然泣き始めちゃったんですよね。
「あれ、おばあちゃんはどうしたの?」って聞いていたら、彼は実はこっちの学校に来てずっといじめに遭ってたんだって。「言葉が違うやつがきた」とか、ちょっと体が大きかったんで「巨人がきた」とかの理由でずっといじめに遭ってた。「それが辛くてこの前自殺をしちゃったんだ」って言ったんですよね。小学校3年生だったんですけど。
僕は本当に信じることができなかったし、本当にいろんな感情が湧き出ちゃいました。
「なんでおれに言ってくれなかったんだろう」っていう彼を責める気持ちにもなったり、「なんで僕は何もしてあげられたんだろう」って自分を責める気持ちにもなった。
おじいちゃんおばあちゃんつらかったよねーとか彼も辛かったよねっていうそういう気持ちにもなったし。
だけどやっぱ一番許せないなって感情としてすごい残ってるのが、「いじめてたやつ絶対許せないな」っていう気持ちになっちゃったんですよね。
まあ当たり前の感情ですね。
「俺の大事な友達に何してくれてるんだよ」ってすっごい腹が立ったんですが、何もすることができなかったんです。
そういう過去を抱えながら大人になっていって、コーチングと出会って、当時のことも振り返ったりするんですけども、改めて振り返ると「いじめてた子たちも同じ小学校3年生だったんだよね」って思ったんです。
ひょっとしたらちょっとからかってただけかもしれない。
仲良くなりたくてじゃれてただけかもしれない。だけど受け取り側の僕の友だちにとってはそれがつらかったせいで自殺してしまったということがある。
そのことを通して小学校3年生だった子が大人になっていく過程の中でひょっとしたら自分がそこまで追いやってしまったっていう気持ちを抱えながら生きたり、自分なんて夢を叶える筋合いがないって思ってる人もいるかもしれない。
それっていじめが良い悪いとかいろいろあるかもしれないけど、誰にとってもいじめって良くないものなんじゃないかなってすごく思ったんですね。
だったらもっと小さいうちから良いコミュニケーションのベースみたいなものを身につけることができたら、もっと楽しく楽に協力し合いながら生きることができるだろうし、自分がやりたいことをお互いに自分ごととして応援し合うことができる。
そういう未来を築いていけるといいなって思いました。
コーチングと出会って子ども向けにコーチングっていう一言で言うとナイスなコミュニケーションというか。
しっかりとベースとして整えることができて、自分らしく子どもたちが人生を楽しく全うしてもらえるといいなって思って活動しているっていうことです。
すごい。つまりベースはコーチングというよりはコミュニケーションであって、いじめっていうのも結局間違ったコミュニケーションの仕方。
いじめようと思っていじめてる人ってそんなにいないよねっていうところからの上手いコミュニケーションの取り方、ナイスなコミュニケーションの取り方を「こんなふうにやるといいんだよ」っていう形でコーチングっていう手法を使っていると そんな感じですね。
日本親子コーチング協会を立ち上げたキッカケは親子のミスコミュニケーション
そしたらこの先その活動をしていこうって言ったときに今日本親子コーチング協会の代表理事をやられてるじゃないですか。
それを立ち上げた経緯ってなにかあるんですか?
立ち上げた経緯は、元々この協会になる前はこどもコーチクラブっていう名前で任意団体として活動してたんです。
前の会社がコーチング会社だったんですけど、そこの社内ベンチャーみたいな形であったのが子どもコーチクラブなんです。
そこから会社がいろいろと事業を分けていこうって形で僕はそこから独立をして日本親子コーチング協会っていう協会を立ち上げてたっていうのが経緯なんです。
そのタイミングでもっといろんなお母さんだったりとか子どもたちの役に立ってるような仕事ができるといいなあって思っていろいろとヒアリングをさせてもらってたんですね。
その中でお母さんたちに話を聞いていると「子どもが全然話をしてくれないんですよ」っていう悩みを持ってる方が結構多かった。
そして子どもたちの話を聞いていくと、「ママは全然話を聞いてくれないんだ」って言ったんですよね。
「あれ、どういうことかな?」って思ったんです。
うん。
お母さんは聞きたいと思っている。そして子どもは話をしているという自負がある。
それにもかかわらず親子の間でミスコミュニケーションが起こっちゃってるって。だったらもっと話とか気持ちっていうところを分かち合えるような何か家作りができるといいなって思ったんです。
そこで何ができるか考えているときに公園に行ってみたら、子どもたちの輪があって「みんな何やってんの?」って聞いたら「カードゲームをやってるんだ」って言ったんですね。
おお、カードゲーム。
「みんな学校の友達なの?」って聞いてたら、「いやもう今日初めて会ったんだよ」って言ったんですよ。面白いなと思いました。
そこで子どもたちにとっても何か1つの共通の話題だったりとか共通のツールがあったとしたら、昔からの友達みたいにいろんな気持ちや普段の話をいろいろと話すことができるんだなって思って。
だったら親子でそれぞれの気持ちを分かち合えるようなカードができたら面白いなぁって思って。ピットインカードって言うんですけど。
こういうカードを作ろうって思って、クラウドファンディングをやりながらカードを作って、同時に協会を立ち上げていったっていう感じなんです。
なるほど。社内起業家みたいなところから世の中のニーズにマッチさせてたみたいな形なんですね。
そうですね。
そもそもコーチングとは?
ナイスなコミュニケーションと夢をかなえる専門家
ありがとうございます。もっと聞きたいところなんですけど。今日は本題がありまして、コーチングについてお聞きしたいです。
コーチングって人によっていろんな認識があるんじゃないかなと思うんです。日本ではまだマイナーなんですけど、だんだん知名度は上がってきたなっていう感じがします。
今ではアメリカとかでレディ・ガガだったりとかヒュージャックマンみたいな人もコーチングを受けてるっていうくらいそういうふうな知られているようになってるんですけども、講演会とかしているとまだまだ「僕コーチングをやってるんですよ」っていうと「どこの行ってるんですか?」って言われたりするんですね。
いやそれはコーティングっていう話なんです。
塗る方ですよね。
まだそのくらいの知名度なんだなというのが実感でした。コーチングって一言でいうと「ナイスなコミュニケーション」だと思ってます。
例えば何かやりたいことをやるためには「どうやってやったらいいか」っていう相談に乗ったりとか「そもそもやりたいことって何?」っていう相談に乗ることができたりとかあとは何か問題や課題があったときにどうやって自分らしく解決をしているかっていう相談に乗ったりとかが上手い人がコーチって言われている人なんじゃないかなと思います。
僕の思う勝手な肩書きなんですけども、もっと夢をかなえる専門家みたいな形で伝えてるっていうのがコーチングなんですね。
もうちょっとわかりやすく言うと、コーチって元々の言葉を知ってます?
「コーチって言葉知ってますか?」って聞くと多くの人が手を挙げるんですけど、多くの人の認識としては野球とかサッカーのコーチをするんじゃないかなと思うんですよね。
その一方でお母さん方に「コーチしてますか」って聞くと「カバンのコーチですよね」って言ってくれるんです。
うん、ちょっと違うね。
でも検索してみるとコーチって検索すると確かに一番にカバンのコーチが上がってくるんですよね.。
僕らがやってるコーチは、どっちかっていうとカバンのコーチの方が認識としては近いかもしれなくて。
そうなんだ。
何かというとカバンのCOACHのロゴには馬車の絵が描かれてるんですよね.。
元々コーチって言葉の語源は馬車だって言われていて。ハンガリーにコチっていう街があったそうなんです。
コチの馬車はものすごく性能がよくて、馬車というとお客さんの行きたいところに行きたいスピードで連れてってくれる象徴としてあるんですけど、そのコチって町から「コチ」→「Coach」→「コーチング」って名前が変わっていたっていう説が有力なんです。
現代風に言うとタクシーのようなもの。
コーチングとは一緒にサポートしていくこと
今だと、タクシーに乗るとある質問をされるんですね。
「どちらまで行きますか?」という質問。
必ず聞きますね。
聞かれないとけっこう怖いですよね。
どこでもいいんでとか言われても困りますよね(笑)。
でも僕はすごく怖い体験があって、沖縄に行ってちょっと首里城に行きたいなって今ちょっと燃えちゃったんですけど。
首里城までって言ったらお兄ちゃんが「それよりいいところがあるんだ」って言って海に連れていかれそうになったんです。
これめちゃくちゃ怖いんですよね。
ああ…やばいですよね。なんか連れていかれて拉致されるみたいな
そうなんです。「僕は首里城に行きたいんですけど」みたいな感じなんです。
でも、これまさかと思う人もいるんですけども我々大人はやりがちで「夢は何?どこに行きたいの?」って聞いたときに「僕はユーチューバーになりたいんだ」って言ったりします。
もう親としては「YouTuberよりお医者さんの方がいいんじゃない」みたいな感じになっちゃうことって結構あるかなとは思うんですよね。
これって子どもたちにとっては、怖い体験なのかなみたいな.。
行き先ちげえよみたいな。
だから危ないですよね。なのでタクシーの運転手さんはお客さんがどこに行きたいのかって目的地を聞いて、安心安全に連れていってあげるのが大事な仕事かなと思います。コーチもすごく似てる感じですね。
その一方でもう一個聞いてくれるタクシーの運転手さんがいるんですね。それは「どこに行きたいですか?」っていう行き方ですね。
つまりタクシーの運転手さんは、「どこに行きたいか?」っていう行き先、それと行き方を聞いてそこに連れていってあげるのが大切な役割。
でも、人によっては「今この道は混んでるから裏道を通っててほしい」とか「なるべくお金をかけたくないから高速道路は使わないでほしい」とかこだわりの行き方があるんですよね。
なのでタクシーの運転手さんがやってることと僕らコーチがやってることって、実は親和性が高いものかなと思ってるんです。
なるほど。
ただ運転手さんとコーチの決定的な違いは何かっていうと、タクシーの場合「お客さんどちらまで?」って聞いたときに「いやそれがどこに行きたいのかこの10年くらいはわかんないんですよ」っていう人ってほぼいないんですよね。
大体決まってるからね。乗った瞬間に。
そうなんですよね。
もしそういうお客さんが乗ってきたら、タクシーもいっぱい走ってるから他のタクシー捕まえてくださいねって言えばいいだけなんですけど、僕らはこうするとこれには同じような人が来てくれるんです。
「これからどんな人生生きていきたいですか?」だったりとか「どんなキャリアを積んでいきたいですか?」とか「将来大きくなったらどんな大人になりたいの?」って行き先ですね。実は行き先がわからないんだっていう人は結構多いです。
迷ってるってことかな?
ですね。
僕らは降りてもらうってことはしなくて「どうやってそのやりたいことを見つけていけるのか?」だったりとか「そこの行き先に対してどういう生き方で自分らしく行けるのか」ってところを一緒に考えながらサポートしていく。
それが僕らがやってるコーチングって形だなと。
なるほどね。乗ってからわかんないんだっていう行き先までをちゃんと誘ってあげるような人がコーチだということですね。