「ドリル宿題って意味あるの?」
そんな声が聞こえる昨今、小学校ではドリル宿題をどうするか?の議論になることが多くなりました。
そんな時、「ドリル宿題は完全に撤廃し、子供たちの意志で宿題を行う!」と宣言をした学校があります。
茨城県水戸市立石川小学校、校長の豊田先生(2019年)の元、この取り組みは始まりました。
そこで石川小学校ではどうしてドリル宿題を完全に撤廃できたのか?をインタビューしてきました。
ドリル宿題はなぜ必要ないのか?ドリル宿題をやめる上でのポイントをわかりやすくお伝えします。
ドリル宿題を無くした理由
実は妻がたまたま秋田出身でして、一人勉強ノートの良さは注目していたんです。そこに石川小学校が取り入れたという話を聞いて、どうやって取り入れたのか?という話を聞きたくてこちらに伺いました。
そうだったんですね。
秋田には祖父がいて、興味があって、本屋さんにいった時に秋田式ってパッと目についたのはやっぱり秋田に縁があったからかなって思います。
なるほど、秋田との共通点があったから注目できた取り組みなんですね。
うんうん。本を読んでみると秋田の学力が高いとか自主学習やってるんだって「あぁ、これはいいな」って思ったんですよね。
だから秋田の一人勉強ノートなんですね。
豊田先生が言う秋田式の家庭学習をまとめた本。
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ポチップ
あー、たしかに一人勉強ノート、すごい自主学習ですよね。
ドリルとは明らかに効果が違うように見えます。
ドリルって根本的に効果ないんですよ。いや、一部では効果あるかな。できない漢字を繰り返し練習するとかあってもいいんです。
ただ、ドリルだけだと、我々先生としてはドリルやってれば学力上がるようなイメージを受け取っちゃうんですよ。
うーん、確かに繰り返しが答えの丸写しになっている子供も多いですからね。僕も同様の考えを持っています。
宿題のやり方も先生にとって簡単なんですよ。ドリルやってこいって言って、何番やれやれって。
簡単だから回収して丸付けする。ところが、私が疑問なのはずっとそれやってきて日本は全然良くなってないっていう事実なんです。
これはホームページに書いたんですけど、例えばバブル弾けたり、GDPが下がったりいろいろある中で、ドリルっていう宿題はずーーっとやってるんですよ。
なんも日本は変わってない。
世界は変わってるのに教育は変わらなければ何も変わっていかないじゃないですか。
だって子供は変わらないんだから。
そう。子供変えるためには、じゃあ中学校、高校、大学で人を変えられるか?っていうと幼稚園とか小学校のほうが子供って変わりやすいと思うんですよ。
何か好きになって集中する瞬間って幼稚園が遊びながら勉強するじゃないですか。
小学校もなんか好きなこと遊びに集中できるっていうのが許されるっていうか…できるのは小学校の特権なんです。
中学校になっちゃうと受験がどうのって思考が変わってきちゃうんですよ。
僕も変えるなら小学校が大事だなって思って支援のメインにしていますね。
私が一番気になったのは、その効果ないってことに対して先生方が一生懸命丸付けして一生懸命やって返す。
そんな時間が例えば中休み、昼休み、給食中にやってたりする。
あー!僕も支援の時、目一杯その現状を見てました。「休みの時間まで働いてんのか」と。
そうそう。それで返すんですけど、果たしてそれが本当に効果あるかっていうと、そこまでの効果はない。先生方は疲れちゃって他のことができないっていうのを目にしているとそれをなんとかしたい。
だからドリルだけじゃ効果上がらないっていうのもあるし、先生方の自分の時間をもっと使って欲しいっていう二本立てなんですよ。
大事ですね。全員が幸せになる仕組み。だからドリル宿題の撤廃なのか…。
そんな感じでなぜドリル宿題をやめるか?っていう話で「やっぱ宿題は大変だなー」っていうのがずっとあって、「どっかのタイミングで宿題の見直しをしたいなー」って考えてたんですよ。
極端なこというと自主学習さえなくていいかなって。だって子供って好きなことやれば良いわけだし。本当は読書とかね。自由だから気付くんです。
他人や、できごとを通してしか自分を発見することはできないとも言われてますからね。
それをなんで学校で「宿題やれー」って家に帰ってまで勉強やって…って思ったんですよね。まぁ、そこまでいうと行き過ぎなんだけど。
自分の子供たちも宿題無視するか、ヒーヒー言いながらとりあえずやるかの二択な感じがします(笑)。
まぁ、やりたかったのは家庭学習のやり方を改革したいっていうのと、先生方の働き方を変えてあげたいってすごく思っていて、その2つがなんとかなればドリル宿題は宣言をしたときに理解が得やすいかなと思います。
宿題に対しての意見を聞き、公表することで退路を断った
私は手引きを作ったりしたんだけど、「ドリルだけでは学力はつきません」ということと、「家庭学習改革に協力してほしい!」っていう2つを訴えたんですね。
今の所6割くらいが賛成してくれてますね。
まぁ、ここまでくれば修正しながらやっていけるかなと。
そういえば、僕たちは新聞を見てこちらに取材に来たんですが、どうして新聞に載ることになったんですか?
今回新聞とかいろいろ言ったのはたまたま私がある会に出た時に隣りに新聞記者の方がいて、「こんなことやるんです〜」って話をしたんですよ。そしたら興味を持ってくれて。
実はそれまでには先生方とも話をして学年主任さん、PTA会長さんとか集めて、「これどう?」って話聞いていて、「校長先生がやるなら理解できるし、良いんじゃない?」って話がすでに進んでたんです。
だから「それ面白い」って乗ってきてくれたんですよね。
そこまで進んでいれば新聞記者としては載せやすいでしょうね。
私は取材に来てくれて、ここまで大きいと思わなかったんですが、自分の中では新聞社に声かけたっていうのは後戻りできなくしたんですよ。
言っちゃうとやるしかないじゃないですか。
確かにそうですね。書いておいてやらないんかい!ってなりそう。
こっちは言い出しっぺなんだけど、普通に過ごしたら大きな議論が流れちゃう。
だから言ってしまえば話が大きくなるから話をしたって感じですね。
大事ですね。どうしたら止めないかを考えての決断だったんですね。
でも、そうは言っても不安はあったんですよ。
やっぱりドリルずっとやってきているし、急に変えるっていうのはどうかなって意見もあるんだろうなって思ったし。
ドリル宿題って教員にとってアイデンティティの一つと言っても過言ではないかもしれませんからね。
自分の中でも説明をするためのここまで来てドリルじゃダメなんだよって理屈っぽい話ができるようになってきたので、やっとどんなことがあっても論破できないくらいの想いを見せて、説得できるようになってきました。
あと、年号が変わったってこともあったし、いろんなことが絡み絡んで今回できた。先生方のいろんな考えを結構聞いたりとか、若手の先生の話を聞いたりとかその辺はやっぱり自分の中では力になりましたね。
私が自分でやっているというよりは先生がたの意見を聞いて、先頭立ってやっているけども、石川小全体でやっているというイメージですね。
それが校長としての職務だと思います。素晴らしいです。
ネットを通じて、保護者からドリル宿題の意見を集め、共に宿題の是非を考えてもらう
あとは保護者向けに話もしたんですよね。それで質問があった時には「私が答えます」って宣言しちゃってるんです。
ホームページでアンケート機能つくってるんです。マクロミルって会社の
Questantってサービスですね。
あー、良いですね。無料でも100件集められますからね。
そうそう。アンケート機能を使うと、学校だよりに張り付けたQRコードを読み取ってもらったり、スマホからリンク行ってもらったりして、結構、保護者も意見を書いてくれるんですよ。
確かに紙媒体だと子供が出さなかったり、返答が面倒だったりしますね。書いても子供出し忘れたり無くしたりするし、意外と大変。
それで私のほうで答えるんですけど、賛成の意見もあるし、やっぱり反対の意見もあるんですね。保護者の方は結構意見が鋭い方がいて、私も本当にありがたいというか。
反対意見も取り入れて一緒に作っているってのが素晴らしいですね。
で、これ思ったんですけど、今までこんな風に保護者の意見が反映されて学校の運営方針を変えるってことはなかったんですね。
今までだったら単純に学校アンケートってやって、簡単にアンケートして文章で書かれていて、はい出しましたー。もらいましたー。で終わりだったんです。
確かに僕ら保護者も答えるけどアンケートが何だったのか分からないですからね…。紙媒体って集計しづらいし大変ですよね。
うん、やっぱりネットの力ってすごくてねぇ。ネットで来てるから私も返事が書きやすいんですよ。
見る手間はありますけど、意見が即座に反映されたりやり取りが円滑になりますね。
すぐアップしてすぐ返事ができるっていうやり取りは新しいコミュニティスクールみたいな感じですね。
地域の意見が即座に学校運営に反映されるってまさにコミュニティスクールですね。
本当にやってていろんな意見もらって自分の意見言ったり、保護者の意見に対してこう考えてますよって言えると自分の中で考えが固まってくるんですよ。
だから、今回のやり方はすごく良いなって思いました。
良いことだけど、大変でなかなかできないことですね。でも結果として良い取り組みに繋がっている。アンケートでそれが実現できると思いませんでした。
まぁ、今の時期は忙しいのでそろそろコメントは終わりにして、また冬休みにはたらきかけて改善点見つけて1月から始めてって感じですかね。で、より良いものを4月に提案かな。
今は試行期間って感じではあるんだけど、いろんな課題が見つかってきてはいるので修正すれば4月からはまぁ、うまく進められるかなーと。
なるほど、試行期間があればすんなり導入できますね。
ドリル宿題の廃止は地域も協力的だと進めやすい
ここ、石川地区には昔からおやじの会、通称『
げんこつの会』っていうのがあって、地域が強いんですよ。
で、げんこつの会の方がかぼちゃ祭りっていって、大きいステージ組んで取り組みしたりとか…そういう協力的な方がずっと住んでいるんです。
げんこつの会も世代交代しながら本当にこの地区を大事にしてくれているんです。
今、実際に支援している学校がいくつかありますけど地域が元気ないと…(地域は)ピクリとも動かないですね。
そうです。コミュニティスクールは地域あってこそですよね。
「先生がやるんだったら僕らも協力するよ」って言ってくれる方もいるんですよ。地域の方の協力があって、この取り組みはスタートできています。
学校だけで決めず、地域と共にドリル宿題の在り方を考える
宿題やろうぜーって論破できないところまで組み上げるって言ってましたけど、それでも反対する職員とか、反対する地域とかいないんですか?
うーん、やっぱり反対も多少あるけど、実際はそんなになかったですね。
それよりも不安ですね。やっぱりドリル丸付けの採点がすごく大変なんですよ。
そうですねぇ。何十年も続いていた文化をいきなり止めるのは勇気いりますよね。
大変だねー、やめちゃいたいねー。って言ってるのも聞いているし。
それでも、実際は基礎の反復と信じてやっている学校がほとんどですよね。でも、思ったほどの成果は出てなかったのが課題なんですよね。
そうですねぇ。反対っていうよりはどこまで自由学習として認められるのか?とかドリル繰り返し練習しなくていいのかな?とかそういう声はあったんです。
やっぱりそこは保護者と同じで適度にやったほうが良いのかなとか。だから、反対の意見を取り入れて調整しながらまたやっていくようになったんです。
やっぱり校長さんが「こういう風にしたい!」っていうと「絶対おかしい!」って言うところまで行かないっていうのはありますよね。
学校はボトムアップ苦手ですからね(苦笑)
どうしてもトップダウンしかいかないので、校長さんの手腕が問われますね。
実は私、この地域いたことあるんですよ。ここにいたのは5年前にいたことがあって教務主任やってたんです。
そうなんです。3年間やってたので、その時のメンバーがいるんです。げんこつの会に。そうすると豊田先生が帰ってきた!って歓迎してくれたんですよ。
地域の方も「豊田先生だったらオレたちのこと分かってるからねー。」だし、僕も「分かってますねー。また来ました〜」って4月当初から割と和気あいあいな感じなんですね。
信頼関係はそこであったので、だから多少変なことやっても許されたんでしょうね。「そこまで言うんだったら少し試しにやってみるか」ってね。
そう。信頼って大事ですよ。信頼がないのにいきなり「宿題なし!」って言われても「新しくきた校長がなんか変なこと言ってる」ってなっちゃうかもしれないですね。
そこら辺はここに移動してきたタイミングとかもあって、職員、地域の方に本当に感謝ですね。かぼちゃ祭りやった次の週にプレゼンしたし、「校長さんがやってくれるんだったら、まぁいいのかな」って話になってくれたし、周りの人の協力。それが一番ですね。
ドリル宿題をやめた結果
2020年2月現在、すでに取り組みが実施されてから3ヶ月が経過しました。ドリル宿題をやめ、どのような結果が見えたのかをインタビュー後、石川小学校が公開していました。
教員の時間外勤務時間が10時間以上減少
教員と言えば時間外勤務時間が非常に多いことでも知られています。石川小学校でももちろん時間外勤務があります。
特にインタビューでも言われているように、採点丸付けをする時間は中休み、昼休み、放課後など時間外勤務になることが多いようです。
その時間がなんと前年度と比較して1ヶ月で11時間20分も減少したとのこと。
このグラフで分かるように,昨年度12月の時間外勤務時間の担任1人当たりの平均は,54.57時間でした。
それが,今年度12月には,43.2時間まで減っています。約11時間20分の減なので,誤差ではないと思います。
条件をできるだけ同じようにするために,昨年度と今年度のどちらも本校で学級担任をしている先生の平均で出しています。
もちろんこれだけで結論を出せるわけではありませんが,保護者の皆様にもご理解いただきながら取り組んでいる成果が表れていると,少なくとも思います。
出典:水戸市立石川小学校 ブログ(データからみた時間外勤務時間の変化)
まだまだ時間外勤務時間は多いようですが、ドリル宿題をやめただけで、10時間以上減少したというのは非常に効果ある取り組みと思って良さそうです。
子供たちの宿題に対する行動の変化
子供たちは宿題をやろうと思ったらしっかりやる子は少なくなっていると思います。
僕の子供たちも基本的には答案の丸写し。それを繰り返し3回…。
子供たちも面倒くさそうにやっているし、非常に効果の薄い取り組みだなと感じています。
しかし、石川小学校の子供たちが家庭学習ノートに記載した内容はどれもイキイキと書かれています。
4年生のノート。普段習わない難しい漢字や、内容を自ら学んでいます。
春は別の読み方がある…春夏秋冬にはいろんな読み方が隠れている。
ただ昔の読みを書くだけでなく、気付きまで書けているのはポイントが高いですね。
6年生のノート。自身の行動を振り返り、改善するにはどうしたら良いか考えています。
できないことに気づくこと。そして、どうしたらできるかを考えること。
これを手順にしてまとめている。これぞ機械なしでできるプログラミング教育ですね!
1年生のノート。漢字に対応する絵を描いていて楽しそうです。
絵を想像し、描くというのは意外と難しいものです。正月は鏡餅や、コマがあると想像した。
それこそが反復練習の定着効果を高めてくれるのでしょう。ただの繰り返しにならないのは良いですね。
1年生のノート。どんな成り立ちで漢字が作られているのかをまとめています。
漢字ドリルにはこの記載はありますが、改めて注目することはなかなかありません。
自らこの成り立ちに興味を持ち、まとめるから自らの知識となります。
このようにただ漢字ドリルや、計算ドリルの反復練習をさせるだけではできない深い学びを行っている子もいます。
もちろん、そこには保護者の努力もあるかもしれません。しかし、自らの課題を自らで考え、実践し、学んでいく力はこれから先、どんどん必要になります。
学力ではなく、人間力が培われるのではないでしょうか?
ドリル宿題を廃止には校長先生の取り組みにかける情熱と、それに応える地域の方の信頼が大事
今回インタビューをしてみて感じたことは、校長先生自身が温めていた熱い情熱を感じました。この熱意こそが周りに転移し、多くの人の信頼を得られた。
そして、地域の方の協力が必要不可欠であることも重要。
この取り組み自身が地域一丸となるほど大きな輪になっているのは、双方の想いの先にある子供たちの未来が同じ方向性を見ているんだろうなという印象が強く残りました。
最後にアンケートに答えた校長先生のお言葉が非常に感動するお言葉だったので、引用して掲載させていただきます。
意見をいただいているみなさん、このブログを読んでくれている皆さんは、今まで以上に石川小学校を身近に感じていないだろうか?
いつの間にか、学校運営に参画している気分になっていないだろうか。
当ブログに皆さんの声を紹介している理由がここにある。
賛成の方も反対の方も、このブログを見ている方すべて、すでにもう石川小学校の運営に参加していることになる。
もっともっと学校は変われると思う。それは皆さんがいるからだ。
出典:【賛成意見と反対意見の比較検討版】「いしかわスタイル家庭学習」中間まとめ(2019年12月4日)
学校は一人で作るものではありません。
そして教員だけで作るものではありません。
地域に住まうみんなのためのもの。どんな子を地域で育てたいか?
その学び舎こそが学校であると僕は感じました。