茨城県古河市立上大野小学校でICTエバンジェリストとして,ICTを活用した授業研究に取り組む薄井直之先生にインタビューをしてきました。
※現在、薄井先生はエバンジェリストではありません
教員として,またICTエバンジェリストとして薄井先生が子供たちとの関わりの中で日々考え,感じていることを本音で語って頂きました。
原義は、キリスト教の「伝道者」。近年IT関連で用いられる用語であり,新しい知識や高度な技術を身に付け,他者に広めていく人材のこと。
ICT導入までの経緯と、教育委員会や、女性教員との助け合いをお話いただきました。
ICTを導入して、どのように子どもたちと関わるかをお話いただきました。
教師になったきっかけと教師としての喜び
ー薄井先生はどうして教師になろうと思ったんですか?
単純におもしろそうだからです(笑)。
自分が小さい頃憧れていたのはヒーローになることとか、映画を撮ってみたいとか、それを人に見せたいとか制作意欲もありました。かといって専門的に勉強する時間もなかった。
教員は総合的な学習の時間を使えば子供たちを主役に劇もできるし、動画の編集もできるし、描いた絵を見せることもできるし、子供が目の前にるので反応が直で返ってくるんですよね。失敗ももちろんあって落ち込むこともありましたが(笑)。
ダイレクトに自分にすべてが返ってくる、その分自分も全力でやらなきゃいけない。
そのキャッチボールがすごく楽しいんです。
ー教育実習を受けるまではどう思っていましたか?
なんとなーく教員の道もあるなぁくらいだったんですけど。
ー実際にやってみてどう変わりましたか?
おもしろいなと。
堅苦しさは感じてましたが、それは別にいいやという感じです。
ー教師になって今までで一番嬉しかったな、ということはありましたか?
一番嬉しいのは、仕事上で自分は一生懸命、子供たちと向き合ったり一緒に遊んだりしてますが、そういった子供が将来「教員になりたい」と言ってもらえるのが一番うれしいですね。
ーなるほど、先生を見て言ってくださるのは嬉しいですね
そうですね・・・
気を遣って言ってくれてるのか分かりませんが(笑)。
最近、教員が大変だって言われるので、子供たちが教師を目指すきっかけになっていたらいいなと思います。
なりたがらない人が増えてきちゃった中で、目指してくれる子が増えるというのは嬉しいです。
つらいことは仲間とのつながりによって解消する
ーでは、その逆で教師になってすごく辛かったなということはありますか?
辛いのは、教師になるまでですね。
採用試験っていうのは絶対通らなくちゃいけない道で、それが7月に一次試験があると。
でも勉強してればいいんですが、仕事しようとすると採用試験対策の勉強ができなかったり、勉強しようとすると現場の仕事が思うようにできなくなっちゃったりとバランスを取るのが難しかったですね。
合格するまでが一つの山で、担任を持っていたのでは合格はできないですね。
私は自分でお願いして担任を外してもらって、受かったことは受かったんですが、その間は担任じゃないから楽しくなかったですね。
それで今度は担任になったらなったで、単学級に行ったので人数が少ないと。
仕事を分担すると言っても、若手の男は「力仕事もやれ」「パソコンやれ」「体育やれ」と全部回ってくるので。
ー若手だから何でもやれは大変でしたね
どうしても平等じゃないなぁと感じるところはありました。
気持ち的にも体力的にも辛かったときはたくさんあります。
ー辛い時はどうやって切り抜けていますか?
前は辛かったときは仕事上は自力でなんとかって思ってたんですが、最近はエバンジェリストの仲間と相談します。
ーでましたね、エバンジェリスト!(笑)
エバンジェリスト間で横のつながりが出てくるので、仲間と相談して授業づくりとかをするようになりました。
ICTの活用によって子供たちがいきいきと取り組む授業になる
ーそのエバンジェリストにはどのようなキッカケでなったんですか?
自分がエバンジェリストになったキッカケは、その時点では唯一の若手だったからです。
例えばタブレットを使うとしたら自分しかいない、くらいの立場で。他の人はやりたがらないと。
ーその時は「なんで俺がやらなきゃいけないんだ」とか思いませんでした?
そうですね…、タブレットを自由に使わせてくれるということと、機材が充実するということと、いろんな研修にいけるということ。
そういうメリットもあったので、最初はあまり何も考えずなってみたという感じですね。自分しかいないだろうなぁというぐらいの。
ーエバンジェリストになってよかったですか?
良かったですね。
ーエバンジェリストはICTを推進する人ですよね。ICTが授業に入るとどんなふうに良くなったと実感できますか?
一番は、子供たちがいきいきと授業をやるようになったということです。
特に発表するときですね。
子供がノートを写したり写真を撮ったり、自分が見つけてきた資料をタブレット経由で映して発表するというのが、今までは全部言葉で言わなくちゃいけないとか、グラフを文章にまとめたりとかで大変だったんです。
今までは機械を使うのはベテランの先生だけの特権!みたいなところがありました。
タブレットを導入してから使い始めたのは、先生も子供たちも同時スタートで、そんな中で子供たちが、「こんなアプリを使うと見やすい」、「良いサイトを見つけました!」と言ってくれるんです。
子供も自分からどんどん進むし、先生もそれをみて負けてられないくらいのいい刺激をもらえるので、とても良い刺激ですね。
発表するときは完全に子供たち自身が主体で、見せる画像を探すのも自分、iPadをテレビに繋ぐのも自分で行って「このように・・・」と実際に示しながらできるようになったので、それが子供たちにとってすごく楽しかったみたいです。
文章にしなくちゃいけない、うまく文章にできないと発表しても伝わらないというブレーキが、視覚で見せることによって伝わりやすくなったんです。
発表に対するハードルが低くなるんですが、段階はたくさんあるので、ちょっとずつ登っていって、今まで難しかった発表がスムーズになり、「こんなにみんな聞いてくれるんだ!」っていうのが嬉しかったという意見がでました。
「学び合い」でスキルのギャップを埋める
ーICTの授業をするには、やはりタブレットが全体にないと難しいですか?
そうですね、タブレットがきっかけにはなりました。
今までの発表って、例えば6年生が原稿みないで発表しなさいと言われたら、全部の文章を頭に入れて、機械のようにただ喋るだけのものだったんですね。
それだとやっぱり覚えられないというハードルもあって。
それがプレゼン資料みたいに一言でも文字を入れて見ながら喋ると、全部暗記しなくても自分が作った資料なので喋れちゃう。
そういうのがあって、いままでの丸暗記してのものよりは、タブレットを使ったほうが余裕のある授業になったなと言う感じです。
今まではキツキツだったんですよね。
ー子供は機械を使うと喜ぶという傾向がありますが、逆に機械が苦手な子っていますか?
苦手な子もいます。
一番は家にパソコンがあるかどうかで、キーボードが使えるか使えないかで分かれますね。
あとは、いい意味で家でスマホを使っていない子は、学校でも使い方のイメージが湧かない。
その逆もあって、家でたくさんスマホを使っているような子は、授業で使うということに対して自分はこれだけ使えるんだというテクニック面で誤魔化そうとしてきたりします(笑)。
でも、機械が苦手な子は、苦手なりに写真一枚で話をしようとか自分なりに考えて取り組んでいます。
スキルのギャップはありますね。
ーそのギャップを埋めるときはどうやっていますか?
そうですね、授業中にはなるべくでないようにというか、出さないようにしてます。
一番差が出るのはキーボード入力で、小学生の平均が一分間で5.9文字。
10秒で一文字打てるか打てないかなんですね。
それを授業中にやっていたらそれだけで終わっちゃう(笑)。
だから、紙にまとめたものをデータで取り込んで画像として保存するとか、基本はノートベースにしています。
学年に応じてどこまで求めるかというのは難しいんですが、なるべくキーボードの打ち方や画像加工のやり方などの技術的なことはいれないようにしてます。
ただ、その中で機械が得意な子が、苦手な子のフォローにまわるとか、そういう関わりは持てるようにしています。
ー確か古河でありましたよね、マイスター制度。
ICT教育を推進するために導入された制度で、情報機器に慣れている子供たちが、情報機器に疎い子供たちや、パソコンが苦手な先生に教える制度。認定証を持つ子供たちは、低学年に休み時間に教えたりできる。
今年はもう全員使えちゃうのでそんなにやっていないんですが、去年の導入の時期に6年生はタブレットは使えちゃうだろうと。
低学年はどうするか?使い方はどうするか?先生たちにどう教えるか?というのが壁でした。
そこで自分のクラスの子を連れて全部マンツーマンで他の学級に教えに行きました。
そうすると、6年生は教えることでまた覚えて、ここが難しいんだとか、自分もわからなかったところとかわかってきて。
低学年の子から見たら「こんなに簡単に使えるんだ!」ということと、わからなかったら6年生に聞けばいいんだという繋がりができたんです。
全部自分一人に集中していた質問が子供にも分散していったので、負担はかなり減りました。
それで導入が一気に進んだ感じです。
ーそれいいですね。そのアイディアは薄井先生が?
そうですね。自分の負担を全部他に分散するという(笑)。
教育委員会との連携,教師間での「学び合い」が良い成果につながる
ー古河はICTが進んでいますが、そもそもそんなにタブレット配れないよという市町村って多いじゃないですか。そういった、ICT導入で難しい点ってなんですか?
まずは機材選びをどうするか。アンドロイドなのかiOSなのかとか。
古河はもう上の段階で決めた状態で導入してくれて、研修も充実していたのでやりやすかったと思います。
※薄井先生が勤務している上大野小学校ではiPadが導入されています
あとはデータの保存方法をどうするか、個人情報をどうするかとかのセキュリティ面ですね。
通信の速度を保障できるのか、故障したらどうするのかとか。
それらを教育委員会が全て整備してくれていたので…。
エバンジェリストの指導科に古河専用のヘルプデスクのようなものがあったんです。
事前にトラブルを予想して解決策がもう用意されていましたね。それがなかったら大変だったと思います。
ー教育委員会が先にICT導入をしっかり考えないと、現場でできないということですね。
そうですね。
充電端末はあるけれど個別に充電できないとか、まだまだトラブルはたくさんあるんですけどね。
学校では保管庫があるんですが、持ち帰るにはもう一本充電ケーブルが必要なので持ち帰りができないんです。
各家庭に必ずiPhoneがあるわけではないので、そうすると純正品を買うのか安価な粗悪品買うのかによっても予算が大きく変動しますし。
粗悪品買ったら何かしら不具合が出てくるだろうし、かといって純正品は値段が高くて同じ値段で安物が6本くらい買えちゃいますよね。
予算をケチりすぎないのも大切だし、予算も守らないと行けないという線引が難しいです。
ーICTって、苦手な先生多いですか?
そうですね、多いですね。
ーそういった先生は、エバンジェリストの目線でどうしたらICTを使ってくれると思いますか?
んー、最近考え方を変えまして。
最初は、エバンジェリストが研修で「こういった時はこういった使い方でこういった授業をやるんですよ」というのを教わるんですよ。
基本的な機能を一つずつ教えてもらって、エバンジェリストだから吸収は早いんですね。
それをいざ持ち帰って他の先生に教えるとまず「こういった時」が想像できない。
そもそも機械がわからないので、
「アプリってなんなのか?」、「タップってなんなんだ?」っていうところからスタートするので本当に最初は苦労しました。
先程話しにあったマイスターも使って、こうやるんですよというところから始まる。
そうすると講義形式になってしまうんですよね。
3つ目やったら最初の一つ目が忘れられちゃう(笑)。
そうするとまた一つ目に戻るという繰り返しで、お互い苦痛だったと思います。
受け手側の先生からしたら、何を言われているのかわからない。
こちらからしたら、一回やったことをなんで覚えられないのかと。
それでお互いギスギスしてしまったところもあったんですね。
それから少しやり方を変えてみて、もう授業と同じ流れにしてみたんです。
ー授業と同じ流れ、ですか。
体験型学習タイプに
もう「今日はこれをやります!」と。
ちょうど先日やった研修なんですが、「ことわざのビデオを作ってみましょう」というテーマで。
ことわざは皆知っているので、「どれかお題を選んでもらって、ことわざのおもしろ図鑑って4コママンガ風になっているものを動画風に作ってみましょう」と。
教材研究の一環にもなるし、今シンキングツール使っているのでそれを使ってどういう流れで撮影していくのがいいのかという話し合いにもなる。
「シンキングツールってこうやって使うのか」という研修にもなりますよね。
あとは「タブレットで辞書のように意味を調べることもできますよ」という使い方の練習もできるし、最後はビデオにしたので、ビデオの撮影方法と動画の編集方法まで全部セットで研修することができる。
なおかつ、そこそこ楽しいので皆夢中になって話し合いながらやってくれます。
「楽しかったね」で終われるんですが
「実は研修の内容として動画撮影と動画編集と先生たちがお互いに話し合っていた状態がアクティブラーニングですよ」と紹介すると「あぁ、こういうことか!」と納得できる。
最近は体験型研修の形に切り替えています。
グループにして、一人そこに若手が入ればその先生が主導で教えてくれたりしますし。
授業の中で使い方の練習をする
あとはうちの学校で今、子供のプレゼン力を育てるということに力を入れているのですが、それにタブレットが有効だろうと。
その研修も「こうやってプレゼンでタブレットを使うんですよ」じゃなくて
「先生たちの夏休みの思い出を職員研修の度に3人ずつスピーチしていってもらいますので夏休み中に準備しておいてくださいね」と言う形にしてみました。
出勤した時にゆっくり編集もできるし、構成もできるし、何より自分で資料として撮ってきた写真って思い入れがあるんですよね。それをどうしてもiPadに入れたいと。
「じゃあ、それはどうやるんだ?」という練習になります。
今までは「こうやるんですよ」という伝達だけだったので、受け手側の先生からすると必要性がなかったんです。
それが自分の写真だと、もう入れないとスピーチやらない!くらいの必死さが出てきて(笑)。
ーなるほど、自分ごとにすることが大切なんですね
「二枚目も入れましょうか?」というと「いや、一人でできそうな気がする!自分で選びたいから!」といって意欲的に取り組むんです。
「あぁ、アクティブラーニングだ」と。
そしてスピーチ自体も楽しくなってくるんですよ。
研修が面白い形になってきて、やり方を変えてよかったなと感じました。
女性のやりたい気持ちを周囲が妨げないのがコツ
ーICTって女性が少ない気がするのですが、どうでしょうか?学校側の視点から何か見えるものがありますか?
女性を過保護にして、女性の進出を妨げている?
個人的な意見だと、古河って意外に女性の先生が頑張ってるんですよ。
前に出てくる先生のほとんどが女性で、男性教員はあまり出てこないですね。
「発表できる人いますか?」って質問しても「うーん」て黙ってしまったりとか。
機械関係や力関係の仕事が結構回ってきますし、更に若いと「研究授業やっとけ」とふられたり、否が応でも経験値が高まっていくと感じているようですね。
女性で若い先生がいると「こっちでやっとくからいいよ」とか「薄井にやらせればいいよ」とか(笑)。
そういうのがたまにあるんですよね。
こちらが力を入れようと思って誘っても「女性にやらせるのは可哀想だからいいよ」って守ってしまう人もいるので、女性教諭本人がやりたいと思っていても周りで止めてしまうケースもあるかもしれないです。
スキルアップの部分でも言いづらいところもあるんですよ。
「こうするといいよ」なんてアドバイスするとかえって負担を増やしてしまったりするんです。
例えばテストが上手く行かなかったら
「一人ずつノートを見て一言ずつやっていってみたら?」とか。
確かに大変なので、そう言うのも心苦しいところもあるんですけど、本人の為を思ったらそれも必要かなと…
でもそれを「いいよ、そこまでやらなくて」と言ってしまうと、今の負担は減るけれども、長い経験値でみたら力が伸びなくなってしまう。
もしくは変な風に取られて「あぁ、こんなんでいいんだ」って思われていたりとか。
ーなるほど、誰かが止めてしまうと。
女性の世界にICTを入れようとすると、せっかく「やります!」といった方が辛い立場になってしまったり、普段からタブレットを使っているグループだといいんですが、使っていないグループだと大変になるのでもういっそのこと導入しない方法もアリだと思います。
ーそうなんですね。それだとICTの女性人口増えないですね。
そうですね。
そこがちょっと難しいですね。
ーICTっていろんなトラブルもあるし、そのサポートは指導科だと思うんですが、例えば「こういった授業がやりたいんだけどな」って思ったときにはどこに相談していますか?
うちは一人若手がいるのでその方に投げかけてみたり、あとはエバンジェリストですね。
指導課長は全国飛び回っていろんな事例を知っているので、更にいろんな機材を持ち込めるんですよね。※2017年現在、指導課長は交代されています。
あとうちの校長・教頭がすごく理解のある方なので、聞くとGOサインは出してくれると。
究極はFacebookに書き込んでみたり、それも一つの手ですかね。
とにかく、思いついたことは小さいことでもいいから何かしら発言してみることを普段からやっておくと、意外と子供から返ってくるんです。
YouTubeでこんなことをやっていたとか(笑)。
それをやってみたいとか出てくるので、まず呟いてみるといいと思います。
小さな積み重ねが人の人生を充実させる
ー薄井先生の主観でかまわないのですが、学校の先生にとって、価値のある幸せな人生ってなんだと思いますか?
自分としては、人の人生を充実させていくっていう裏方に回ることですね。極端な話、人の人生を預かっているので。
子供たちが10年後20年後に教員になりたいという子もいます。
はっきりとこうなりたいという夢があって、それに対して「こうすればいいよ」という自分のアドバイスが生きて、子供たちが「そうしてみよう」とかなりますよね。
小さいことでいうと授業中に「こうすればいいよ」といって問題が解けるようになったとか、そういった積み重ねが人の人生を充実させていくっていう裏方に回る喜びっていうんでしょうかね。
それはすごく感じています。
ーなるほど。では今の質問は未来のことでしたが、今大事にしていることってなんですか?
今、大事にしているのは課題の設定という部分です。
自分自身が、子供たちのやらなくてはいけないことをはっきり意識させなくてはいけないんだなぁというのが難しいし、また楽しいなと思うところです。
授業でも、例えば「今日はこういう授業をやりましょう」、「タブレット使っていいですよ」、「最後に発表してみましょう」と言った時に、その課題が子供たちにとってストンと入りやすくわかりやすい課題であったら、「じゃあやってみよう」とまっすぐ進んでくれるんです。
「一時間でこんなに成長するんだ!」、「こんな発表できるんだ!」っていうくらいに進むんです。
でも、それをこちらが下手にあれこれ言ってしまうと、クラス全員の方向が違う方に向いてしまって、話し合っているようで口喧嘩になっていたりとか。
「先生はこう言ってたよ!」「いや、こういう意味だよ!」とかお互い理解していないから話がぶれていて、いざ発表するときにも話が全然煮詰まってなかったりとか、まとまってなかったりというのが出てきてしまうので…
ちゃんと、今日はこの時間で“子供たちにこの力をつける!”というのをきちんと自分の中で決めるということをしないと、授業って難しいんだなと思います。
子供って一生懸命なので、やっているけれどもテーマから暴走してしまうこともあるんです。
そうなるとせっかく一生懸命でも評価ができないということになるので、自分がきちんとテーマを持たないと大変ですね。
ミッションみたいなもので、ゴールはここですよというのを決める。
好きな道通ってもいいけど、ルールはきちんとあって、テーマやルールがしっかりしていないと話し合いが充実しないので、そこを気をつけないといけないなと思っています。
自分がゴールで待っていられるような形ですね。
ー今後やってみたい授業はありますか?
やってみたい授業は、もし、なんでも揃っているとしたら自分たちを全身センサーだらけにしてしまって、ホログラムを使って人体模型がバン!と出てきたり、実物でもいいんですけど(笑)。
セッティングする時間がもったいないので、自分の体の動きで黒板が変化するとか。
自分にプロジェクションマッピングを映すとか、机の上に映すとか、はっきりと操作していなくても自分の向きで魔法使いみたいにヒントをだしたりとか、できたら楽しいですね。
子供が「テクノロジーってすごいな」って思ってくれるような授業も面白いかなと。
ICTは道具の一つ。「情熱」が教師としての自分を形づくっている。
ーそういえば、以前Facebookに書き込みあったじゃないですか。『薄井先生からICT取ったら何が残るの?』って。
あぁ、ありましたね。
ー何が残ると思いますか?
うーん、別に難しい問題じゃないですね。
ICT取っても『薄井直之』にちょっと乗っかってるだけなので。道具の一つですから。
普段やってる学級経営とか、子供と毎日話してますよとか、授業づくりは先程言ったように課題をしっかり持ってやりたいなぁとか、丸つけしっかりしてあげたいなという情熱ですよね。
今、頑張ってる熱意とか、仕事に対するプロ意識のところでICTはきっかけでしかないですね。
だからICTを引いたところで別になくても構わないですよという部分と、あると便利かなというくらいです。
ー例えば考え方は、校長によって変わるじゃないですか。「うちはICTやらないよ」というところとか。例えばそういったところに行っても今までどおりに授業ができますか?
まぁ…、そうですね。
授業はできるけど、逆に授業を作るのに時間がかかってしまうかもしれないです。
今はICT使ってすごく便利だというのがでてきたので…。
昔は3階の職員室から降りてきて、また戻って、「あれ、紙のサイズが合わない」とか「文字が潰れちゃった」とか、「色の部分の面積を求めましょうの色の部分がわからない」とかあって、印刷し直すので大変だったんです。
今は全部タブレットを使うとカラーで、しかも印刷しないで配れたりするので。
その便利さを知ってしまったので、戻れないといえば戻れないですね。何か違う工夫を考えないといけないです。
白黒で授業をどう作るのかと、タブレットでどう授業を作るのかって方向性は違うけど、やりやすい授業につながるという意味ではやっていることは変わらないですよね。
成功の裏の努力に目を向けさせる
ー薄井先生って、どのぐらいの年代の子供を担当しているんですか?
ここ4年は6年生の担任ばっかりですね。
ー6年生の子供たちの印象ってどんな感じですか?
うちの学校は素直な子が多いので、傍から見たら幼く感じちゃうかな。
意外に自分の事分かっているようで分かっていない。
だから勝手に「自分は算数苦手だからもうやらない」とか思っちゃってるような子が、思ってるだけで、やってみたら意外と解けたとか。
知識とか経験が足りないのは子供だからしょうがないんですけど、その割にテレビとかYouTubeとかネットでちょっとレベルの高いものを見てしまって、意外と自信のない子が多いんです。
今の子はそういったネットの影響を強く受けているなぁというのはあります。
同じ年代でこんなにできているとか、あとは世間を知らない年齢なのにネットで世界を知ったつもりになっているので、簡単そうに見えてしまって、その結果「YouTuberになりたい」とか出てくるのかなぁと思いますね。
YouTuberって裏ではすごく努力していますよね。
取材して、編集の構成を考えて、なんだったら弁護士をつけて訴訟対策をしたりしている状態でやっているのに、そこは表には出していない。
表に出していない部分を子供たちは想像できないので、楽しそうにやっているだけでお金稼いでいる仕事だって思ってしまう。
そこもきちんと意識させようというのは力を入れているところです。
ー薄井先生が体験したことでもいいんですが、子供たちが今一番大変なことってなんですか?
うーん、うちのクラスの子は勉強苦手なんです。
“苦手だったらやりたくない”という気持ちと、“苦手だからやらなくちゃいけない”という気持ちがあって、その割には逃げ道がたくさんあるんですよ。
外では遊んでいないけど家の中ではゲームもあるし、YouTubeもあるし、真剣に物事に取り組めない自分っていうんですかね。
そういう子が今年は何人かいるんですよ。
6年生になると、市内の外の子との交流が結構あるんです。
陸上記録会とか、市内の全6年生が集まって、こういう人もいるんだなという中で「自分は意外に低いんじゃないか」とか…、「いや、自分が上なんじゃないか」と競いあうんですけど、意外に自分のこと知らないので、そこで人のいいところと比べてしまったり。
意外に今の子供たちって、自分と真剣に向き合ってくれる人が少ないのかもしれないです。
先生たちもあまりきつく言い過ぎると言葉でも体罰扱いになってしまうので、やんわり言う。
でも、実際社会にでると結構キツく言われますよね。
ーそうですね。
学年が上がるにつれて求められるレベルって更に上がってくるんです。
「え?これって○年生でやってることだよ」って言われてしまうんですよ。
そうすると、落ち込んでしまうんです。
今までガツンと熱く言う人が少ないと、どうやっていいのか分からないってなってしまうんですよね。
分からないから、とりあえずネットで調べてみようとか。
そうではなくて、ガツンと言われて「やってみろよ」と言われたらまず「やってみよう!」で実際やってみたら「出来た」、「嬉しいな」って。
やってみた体験というのが足りないのは今の子に感じるので、結果的に色んな面で悩みに繋がるかもしれないです。
「今まで勉強しておけばよかった…」とあとで気づく子が多いんですよ。
じゃあ今やっているのかというと、やっていないんです。「やれ」って言う人が少ないし、今までに言ってくれた人もいないし。
逃げようと思えばいくらでも逃げられちゃう。
そこをしっかり向き合ってくれる人が多いほうがいいかなと思います。
向き合うとやっぱり熱くなってしまうので、そこは難しいんですけど。
逃げる経験しかないんですよね。
ー薄井先生が子供たちを見てきた中で、今までで一番喜んでいたことってなんですか?
新しいものを見る、知るというのが一番刺激になっていて。
郊外学習で、国会議事堂とか日本科学未来館とかの施設を回るんです。
そこで、チームラボという会社のテクノロジーの最先端技術を見たりとか、プログラミングしてあるおもちゃを見たりとか、新しい技術を見て圧倒されつつも楽しい。
それでそこに算数も関わってくるし、勉強した結果がこれなんだというのが分かって「じゃあこれやってみようかな」と意欲に繋がるんです。
あとはiPadの導入も、これで授業をやるとわかりやすい!という時の目の輝きとか。
最新テクノロジーに限らなくても、新しいものを知ったときとかは本当に嬉しそうですよね。
愛情をもって子供たちの「逃げ」をぶった切る
ー自信を持って、これはもう最高に子供の学びに繋がったというエピソードはありますか?
タブレットを使ってからの話なんですが、やはり途中からテクニックに行ってしまうんです。
タブレットを使って自分の考えをわかりやすく伝えよう、とグラフを出したりイメージ図を出したりとかテキストでうまく誘導していこうと思っていたのに、途中から画像加工に走って面白いの作ってみましたとか。
ー本来の目的から外れてしまったんですね(笑)。
そう、本来の目的と違う方に向かっていってしまったんです。
だから、本人たちは満足しているけど、それを全部ぶった切ったんです(笑)。
「全然おもしろくない」とか「何を伝えたいのかわからない」とか。
信頼関係ができているからこそなんですが、全員ダメ出しして、やり直しさせたんです。
「ここがだめだ」とか「こうすればいいんじゃないか?」とかそういったことは伝えてあとは投げたんですよ。
すると、友達同士で確認しだしたんですね。
今までは一人で自信満々に作っていたのが、お互いに確認する時間が取れるようになって刺激しあって。
同じ内容で発表させると流石にレベルが上がっているんですよ。
無駄が全部削ぎ落としてあって、伝えるということに全部意識が向いたので。
一回ダメになって、それを友達と協力して乗り越えていくんだなぁと感じたことがありました。
それがあって、2月にICTフォーラムをやった時の子供たちの発表も上手になったのかなと思います。
この事がなかったら、たぶん発表に真剣に取り組むところまでいけなかった。
こうやらなくてはいけない!という意識を持てたので、それくらい強く叩き切る位のエピーソードがあったのは良かったのかなと思います。
ー今の学校環境で変わってほしい所はありますか?
先生って学校所属になるんですよね。
「他校で実施された授業で使ったアレをうちの学校でも使いたい」となって電話なり、訪問なりすると「なんだあいつくるのかよ」みたいな雰囲気が絶対あるんです。
もっと自由に学校間で連絡を取って、内容を見てみたりとかというのをやりたいなぁと思っています。
あとは簡単に教員が集まって情報交換したりできるような場所とか機会があるといいですね。
タブレットとかうちは一人一台ですが、40台しかないというところもあったりして、そういうところも見てみたいんですよ。
グループ一台となった時のイメージがつかないので、どうやって授業をやっているのかとか分からないので。
逆に一人一台って贅沢なので、他の学校からしたら見に行きたいわけですよ。
学校間で自由に行き来できれば、「ここにしまってるんだ」とか「こういう掲示物使ってるんだ」とか気軽に情報交換できたらいいなと思います。
教員志望の方へ伝えたいこと
ー教員志望の人たちに伝えたいことは?
本当に楽しいよ、という一言です。
こんなに楽しいことはない。
演技をしたかったら授業中に真似て喋ってもいいし、面白い授業を思いついて実行したらダイレクトに反応が返ってくる。
4月に掲げた学級目標がここ最近定着してきて、それによって活動の幅が広がってきたりとか…、常に成長する子供という人間の近くにいるので、こんなに楽しいことはないですね。
責任感って考えると難しいとは思うんですけど、そこは狙いを持って子供たちと向きあっていけば絶対答えは返ってくるんです。
間違ったことを言ってしまったとしても、自分で考えて次はこうしよう、ああしようという繰り返しなので、単調な毎日じゃないというのはすごく楽しいです。
昨日までこだわっていたこととか切り替えられちゃうので、面白いですね。
4年連続6年生やってても、子供は全然違います。
子供の得意不得意で授業も変わっていくし、変えなくてはいけないという難しさもあるし、その「変える」ということがいいことで、ずっと単調にやっていくと絶対息切れしてしまう。
「自分はこんなに一生懸命やっているのに子供に伝わらない!」という風になってしまうけど、そこを自分の一工夫で、言い方を変えたら伝わったとか、プリントを作ってみたら子供たちが一生懸命に取り組んでくれたとか…。
ちょっとした変化で劇的に変わっていくので、大変だけれどもその変化を楽しめるという事が一番魅力かなと思います。
固いイメージはありますけど意外にそうでもないので(笑
まとめ
ICTは先生にとって道具の一つであり,きっかけである。
薄井先生はICTエバンジェリストとしての活動を通して,ICTの活用が子供たちの「学び合い」の創出に繋がっていることを実感していました。
また、エバンジェリスト間で情報を共有することや職員研修を工夫することなどの重要性についても語っていただきました。
薄井先生の取り組みがこれから多くの先生たちの「きっかけづくり」につながると良いですね!
今回の記事に対して、ご協力いただいた薄井先生、古河市上大野小学校さま、ありがとうございました。