近年メディアでもよく、先生の長時間労働、ブラックな職場環境が取り上げられることが増えました。
教員志望者数も減少しており、
文科省がTwitter上で起ちあげた「#教師のバトン」は、教職の素晴らしさを広める名目で始まりましたが、その投稿は不満が大半を占めており、学校現場のブラックぶりを暴露したりと現状を露呈する結果となりました。
そのような中でも絵本を通して、先生という仕事の魅力を伝えようとする松下隼司さんには、どのような思いがあったのでしょうか。
『せんせいって』の著者、松下隼司さんの絵本や先生という職に対する思いなどを、お届けします。
松下 隼司(まつした じゅんじ)
大阪の公立小学校 教諭 18年目(2021年現在)
関西の小劇場を中心に10年間演劇活動を行い、2003年奈良教育大学の小学校員養成課程美術専攻を卒業。その後、アンガーマネジメントの資格(ファシリテーター・キッズインストラクター)を取得する。
- 第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞受賞
- 日本最古の神社である大神神社の第17回短歌祭で、最優秀賞の額田王賞受賞
- プレゼンテーションアワード2020で、優秀賞受賞
- 第69回読売教育賞で、優秀賞受賞
絵本:作『ぼく、わたしのトリセツ』『せんせいって』
絵本で先生方の力になれたら嬉しい
今回、ティーチャーズメディアに記事を寄稿させていただいたのは、ティーチャーズメディアの「働き方改革」についての記事を拝読して、大きく共感したのがきっかけでした。
今年(2021年)の9月に、みらいパブリッシングから発刊した絵本『せんせいって』も、教師の過酷な労働環境について描いています。
先生の業務量の多さから、与えられた休憩時間が実質ないに等しいことや、少しでも時間が惜しいため、給食を早食いしてまで仕事をしていることなどです。
ティーチャーズメディアの記事を読まれている先生方も、きっと毎日、大変な状況で働かれておられると思います。
そんな先生方のお力に少しでもなれれば嬉しいです。
先生を目指す子どもが一人でも増えることを願って
最近、教師のブラックな労働環境がニュースや新聞で報じられているだけでなく、SNSでも頻繁に目にします。
公立学校の教員採用試験の倍率は年々、右肩下がりで減少しています。
しかし、そんなブラックな面があるのにもかかわらず、毎年小学生の「将来の夢」ランキングでは、「学校の先生」はトップ10に入っています。
小学生の「将来なりたい職業」ランキングトップ10
https://www.jafp.or.jp/personal_finance/yume/syokugyo/files/ranking.pdf
子どもにとって学校の先生は、一番身近な働く人であり、関わりの深い職業です。
メディアで騒がれているブラックな面だけでなく、魅力も感じているからこその結果だと思います。
バランスよく両方の視点を知った上で、「学校の先生になりたい!」と思う子どもが増えたら嬉しいです。
先生という職業
絵本なので、先生の仕事のいい面だけを描いて、魅力一色にしてもよかったのかもしれません。
正直、文章だけを見ると、最初はブラックな面一色に感じるような文章でした。
でも、先生という職業を正直に伝えたくて、いい面だけのきれい事で取り繕うのではなく、いい面・悪い面、どちらも正直に表現しました。
本を通して伝えたい4つのこと
① この本を読んで「教師になりたい!」と思う、学生や子どもがいて欲しい
この絵本のなかで、給食を子どもたちとゆっくり食べられなかったり、子どもたちと放課後遊べなかったりする場面があります。
どんどん仕事が増えて忙しくなっていますが、1日1回は子どもたちと休み時間に遊んでほしいなと思います。
私も今、43歳ですが、毎日1回は休み時間に、運動場か講堂でドッジボールや鬼ごっこをしています。
授業はもちろん大切ですが、子どもの目線で考えると、休み時間はめちゃくちゃ大切です。
休み時間にしかできないことがありますし、一緒に遊ぶと、休み時間にしか見えない子どもの表情を見るころができます。
② 先生の仕事を知って欲しい
私は、まだ子どもたちにこの絵本の読み聞かせをしていないです。
実は、絵本をつくったことも、まだ言っていないです。恥ずかしいので。
それでも、「先生って、私たちの知らないところでこんなにもがんばってくれているんだ」と、子どもたちに知ってもらえたら嬉しいです。
子どもたちだけに留まらず、保護者の方にも読んで欲しいと思っています。
絵本を読んでもらい、教員の勤務時間がしっかりと定められている点や、休憩時間とは名ばかりの会議や研修になっていること、仕事を終わらせるために給食を3分ぐらいで早食いしていること、土日も家で授業の準備をしていることなど教員の仕事を知ってほしいです…(笑)。
そして、「この本を教室で、子どもたちに読み聞かせしたら、子どもの接し方が良くなった」、「この本を保護者会で紹介したら、保護者の接し方が良くなった」という声を、たくさんの先生から聞けたら嬉しいです。
③ 「教師を続けよう」と思う先生がいて欲しい
こんなにも毎日、笑ったり怒ったり感情豊かに働ける職業はありません。
可能性がたくさんある子どもたちと、毎日、一緒に過ごせることは幸せだと思います。
もちろん、体力的にも精神的にもしんどいことがたくさんあります。
しんどさがどんどん大きくなっていると感じる時もあります。
でも、先生方お一人お一人に「先生になりたい」と思われた理由があるかと思います。
「先生をやっていて楽しい」と感じられた瞬間があるはずです。
当然、無理は禁物です。
しかし、辛いときにこの絵本を読んで、教師を志した理由や、教師をやっていて楽しい出来事を思い出すきっかけを作りたいと思っています。
④ 「自分の仕事の魅力を考えるきっかけになった」と思う人がいて欲しい
教師になる前、演劇活動を10年間していました。
15年くらい前、教育雑誌を読んでいると「真剣な授業は、真剣な舞台に匹敵する」というような文章が目に止まりました。
その文章がきっかけで、演劇活動を辞めて、授業力を磨く自己研鑽を本気で始めました。
演劇の舞台はアドリブもありますが、基本、台本に書かれていることを何度も練習して演じます。
台本通りです。
でも、授業は指導案通りにいかないことがあります。
子どもの発言で、どんどん授業が深まることもあります。
授業前の休み時間に子ども同士のトラブルで、子どもの気持ちも教室の空気も思わしくないこともあります。
演劇は、舞台の開幕前、たいていのお客さんはわくわくしていますが、授業前の子どもは勉強する気が全くないこともあります。
授業は、台本通りにいかないところが楽しいです。
子どもと一緒に授業をつくっていく感じが楽しいです。
授業こそ、教師の仕事の最大の魅力だなと思います。
”にじいろ”という言葉にかけた思い
※本書では先生の仕事を”にじいろ”と表記する部分があります。
一番最初に書いた文章では、「にじいろ」の部分を「ゴールド」と表記していました。
でも、先生の仕事は、あまりにもブラック過ぎると感じていて。
そう思うともちろん、本当は「ゴールド」でありません。
「ゴールドと思わないと」「ゴールドと自分に言い聞かせないと」と思わないとやっていけないぐらいしんどい状況でした。
でも虹色って、日本では7色と広く知れ渡っていますが、国によって捉え方も見え方も違います。
別に黒色があってもいいし、金色があってもいいし、何色でもいいのです。
読まれた方それぞれの虹色を感じてもらえればいいなと思って、「にじいろ」という表現にしました。
松下隼司先生の今後の展望・願望
教師として純粋に、授業力や学級経営力をもっともっと高めたいと強く思い続けています。
全ての子どもが「楽しい」と思えるような授業、学級経営をできるように、自己研鑽を積み続けます!
そして、絵本に関しては、全国の学校の図書館や学級文庫に置いてもらい、多くの方に手に取ってもらえれば嬉しいです。
そして、「キャリア教育」などさまざまな場面で活用してもらいたいと思っています。
また、ワークショップ公演などの機会があれば、そういったことにも挑戦してみたいです。
私は「コンドルズ」というコンテンポラリーダンス集団と、「鹿殺し」という劇団が大好きなので、ワークショップ公演などで、お呼びいただけるのを夢見ています。
松下隼司先生の先生という職に対する思いが詰まった一冊
「やっぱり せんせいを やりたい。
せんせいを ずっと ずっと つづけたい。」
絵本『せんせいって』は、教師という職業の大変な側面も包み隠さず伝えています。
しかし、その中でも先生という仕事に真摯に向き合い、自問自答しながらも先生の魅力的な一面を伝えている一冊です。
先生という職業を知りたい「せんせいって?」なっている方、先生に関わりのある人はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。