教育委員会と学校の関係は日に日に悪くなっていっている気がしています。
最近では
「教育委員会のせいで…」
「教育委員会なんていらない」
「何の役に立っているのか分からない」
などなど、厳しい批判的な声も守っている学校現場から挙がってきてしまうほど。
どうしてここまで学校との関係性が悪くなってしまうのか?というと、教育委員会が行っている施策が学校のニーズから的外れなものが多いからです。
実際、私が昔、教育委員会所属のICT支援員として働いた時、学校現場の本当に求めていることと合っていないことをすることが多いと感じるシーンも多々ありました。
そこで今回は教育委員会と学校の関係を紐解き、どのようにして改善をしていくと良いかをお伝えします。
これを見れば、今後、どのように学校と関わっていけば良いかの参考になると思います。
教育委員会と学校の立場上の関係
教育委員会は5人の教育委員からなる教育長の元、学校を後方支援する組織、学校を中立的に指導・監督する機関です。
基本的には学校だけでは解決が難しいこと、「学校がそんなことしなくても良いよ」ってことを担っています。
例えば、パソコン・教科書などの機械メンテナンスや、導入に至るまでのやり取り、地域住民によるクレーム…などは学校がやる必要がありません。しかし、一番面倒でお金もかかるやり取りも大変なところです。
このような縁の下の力持ちという事務・管理的な役割で目に見えないところで教育を支えています。
ただ、第三者機関の指導・監督という面もあるので、あまりに運営をダラけてしまうような学校があった場合、改革のメスを入れたりもします。もちろん、そんなことばっかりしていると嫌われちゃうので、基本的には学校をサポートするスタンスです。
僕は昔、教育委員会所属のICT支援員だったのですが、ICT使っての授業をするとなった時に何を使ったらいいか…というハード面、良い授業づくりをする時のソフト面で、お手伝いさせてもらってました。
特に学校と保護者間の人的トラブルで学校だけでは手に負えないって思うことは助言することが特徴で、どうしても人間関係でもつれてしまったら指導主事が中立的な立場で解決に向かわせていきます。ただし、教員・学校の不祥事に関しては守れないと考えています。
教育委員会しかできないことは?
一番大きいのは政治と教育の中立的な架け橋になることだなと思います。
教育は老若男女関係なく、さまざまな人が関心を寄せる分野です。しかし、教育というのは基本的には法律なども大きく絡んでくるので、一個人・一団体の価値観で簡単にいろいろ変えちゃおう!ということが難しいのです。そのため、政治の力で民主的に決めていく必要があります。
しかし、学校が議員さんとやり取りするということは結構大変で、協力すると議員さんといろいろ打ち合わせたり、それこそ不満の種となるアンケートなんかをバンバン配ったりすることになります。
そういうことをやっていると、「学校は○○議員さんの味方なのか?」と反対の意見が出た時に学校が批判を受ける対象になってしまうことになりかねないのです。
これ、本当に嫌がらせもあるらしく、人間の浅ましさが見えますね…。
そういうことを守るためにクッション材として中立的な立場が必要になり、それが教育委員会となります。
教育委員会から見る学校の姿
そんな教育委員会から見る学校の姿は「自信がなくなってしまった」と思っています。
しかし、その要因の一つに自分たち教育委員会の存在があるとも感じていたりします。
今の学校はこんなケースになっていることが多いです。
- 授業しているのに自信ない先生がいる
- 業務が多すぎる、人数が足りなすぎて働くのが辛いと感じている
- 保護者からクレームが飛んできて、ビクビクしている
このような状態では、的確な判断ができず、行動も遅くなりがちです。
多種多様な課題に直面し、充分な時間を持てず、子どもと向き合う時間がない。
そんな学校を中立的立場な教育委員会からすると、指導しないわけにはいきません。
いろいろな課題を出したり、改善を求めたりするのです。
「今、いろいろやらせるのは酷だ…」と思いつつ、「これをしないと学校のためにならない」という板挟みで悩んでいるのが教育委員会の立場だったりします。
本当はグッと寄り添って、一緒に解決していきましょう!って解決するのが近道なんですが、中立的な立場というのが邪魔してその対応になかなか行かないのかもしれないですね。
教育委員会と学校の関係はなぜ悪くなってしまうのか?
実際、教育委員会で働いていると、教育委員会と学校は一緒にやっている仲間…という感じではありません。むしろ、お互いを批判することもあるくらいです。
どうして教育委員会と学校の関係が悪くなってしまうのか…というと、5つの要因があると考えています。
社会のさまざまな変化で求められることが増えている
まず最初は求められることが増えたということでしょう。
今、地域社会から教育に求められるニーズは大体このくらいあります。
- 子どもたちの多様化の対応
- 特別支援・障害がある子の支援
- 外国児童の増加
- 貧困
- いじめの重大化
- 不登校の増加
- 生徒の学習意欲の低下
- 教師の疲弊、教師不足
- 加速度的に進展する情報化への対応
- 少子高齢化、学校教育の維持とその質の保証に向けた取り組み
- 感染防止策と学校教育活動の両立
- 本来であれば家庭や地域でなすべきことまでが学校に委ねられることになり、学校及び教師が担うべき業務の範囲拡大
今、社会は急激に変わり始めています。教育も変わらなければならない段階に来ているのですが、みんなで民主的に決めるという特性上、非常に時間がかかります。
そのため、どうしても指導することが多くなってしまうのです。
教育現場について知らない人も教育委員会にいる
実は教育委員会の中には教育という分野に携わったことがない方もいます。
その理由が人事異動です。例えば人事によって、道路交通課にいた人が突然、生涯学習課(教育委員会の中の一つの課)に所属することもあるのです。(それは県の人事課が任命しています)
もちろん、職員一人ひとり、生涯学習課から別の課に異動…ということもあります。2〜10年の単位で異動してしまうため、ずっと教育という分野に携わっている人は意外と少ないのです。
では、これの何が課題か?というと、たしかに中立的な立場は守られやすいですが、教育現場のことを理解している人が少なかったりします。
なぜ学校の先生がそんなにICTをそんなに毛嫌いするのか、なぜ使えないのか?という背景を教育委員会が理解できていないことが多いのです。
昔、ICTが苦手な先生がいて、サポートに行きたいですって申し出たことがあったんですが、「え、用意してあるのになんで使えないの?」って言う人もいました。
「私たちのことなんにも知らない!」という人が指導するということは、現場で求められていること以外の対策をしてしまい、現場にとって不幸になるケースが多くなってしまうのです。
政治家からの要求を断れない
教育委員会は政治家と強い結びつきがあります。これが意外と先生たちの働き方に大きな影響を与えています。
今、教員の働き方改革が求められていますが、政治を介さないと変えられない部分も多々あります。教員の働き方の改善を望むのであれば、政治家に頼むということになります。
しかし、議会に提出するためには実態はどうなのか?試行した制度は効果があったのか?ということを論理的に説明するために、しっかりとした調査をする必要がある。
その調査に使われるのがアンケートなのです。
今、教員の働き方で一番時間を奪っているものの1位に「使う用途が分からないアンケート」の名が挙がってきます。
教諭に聞いた場合、従事率が50%以上の業務でも、負担感率がもっとも多かったのは「国や教育委員会からの調査やアンケートへの対応」で80%を超えた。「研修会や教育研究の事前レポートや報告書の作成」や「保護者・地域からの要望・苦情等への対応」の負担感も70%以上と多く、ついで「児童・生徒、保護者アンケートの実施・集計」や「成績一覧表・通知表の作成、指導要録の作成」に負担を感じる教員が多かった。
負担の大きい教職員の仕事は? 業務改善指針公開 – リセマム
つまり、教員の働き方を改善するためにアンケートが増えて、それが教員を苦しめて、疲弊度が増してしまう…という状態なのです。
こういうのをヤマアラシのジレンマって言うんだろうなっていつも感じます。
一方通行の通達
国から学校までは一方通行の通達になってしまっているのも課題です。
基本的に教育委員会は市に設置されていて、仕事は地域から、要望は国から降りてきます。
その要望の降り方は国→県→市→各学校となっているのですが、その通達の降り方が一方通行になっています。
文部科学省の通知はいろいろ現場で考えて、現場のニーズにあった形にしてほしいので敢えて抽象的にしてあります。
その解釈をするのが県の教育委員会。その解釈した内容を市区の教育委員会が各学校に通知します。
しかし、実際に学校に降りた要望は「なんとなく分かるけど無茶言うな」みたいなケースも結構あります。そこで分からない部分を質問したくなる。でも、市区の教育委員会はただの連絡役なのでなぜそうなっているのかが質問されても分かりません。
学校は県や、文科省に聞くことはしません。学校が聞いても答えてくれないと分かっているからです。
このような一方通行の通達によって、分からないが加速して敵意を持ったりしてしまうのです。
縦の関係性の特性
教育委員会と学校は横の関係ではなく、縦の関係として捉えられています。
それは通達・監督する立場になってしまうからです。
自分がICT支援員だった頃、電子黒板が各学校に入ったままでした。
教育委員会側としては市の税金を使って導入したので、なんとか使って欲しい…。
でも、学校では電子黒板はホコリをかぶったまま使われていませんでした。
電子黒板の研修などはもちろん行われていましたが、電子黒板が入る前に「こんな電子黒板が来ますよ」という研修なので、実際には触れない。(Chromebook研修も同じようなケースが起こったと聞きます)
ただ、もう一回時間とって集まってもらうのは忍びない…。なので、次なる手はとにかく使ってもらう機会を作ろうと思うわけです。
だから、僕のようなICT支援員が入るまではどのようにやっていたかというと、指導案を作っているかをチェックし、使っている授業を見に行くということをしていました。
普段、電子黒板なんて使っていないので、慌てて設定して、急いで授業準備して、訪問の時に合わせて授業をします。
この時の先生の心境としては…。
このクソ忙しいのに何やらせんねん!!
もちろん、いきなりの付け焼き刃の授業なので本当の子どもたちのためになっている授業なのかは分かりません…。もちろん、訪問の時が終わればまた使わない状態に元通り。
その時にちゃんとできてなかったら教育委員会は校長先生を叱る…。
GIGAスクール構想の時も同じようなことが起こったと聞きます。
この時は、僕が学校に直接行き、サポートしながら「使いたいか?」をさりげなく聞いたら、学校では使いにくい理由をあげてくれて、そこの解消に努めたら使ってくれるようになりました。大事なのは使う側に寄り添うことかなと思います。
教育委員会が学校に本当に望んでいること
そんな悪いことばかりのようなイメージの教育委員会ですが、教育委員会が学校に本当に望んでいることは至極まっとうなものだったりします。
実際に教育委員会の方たちからお話聞いた内容をまとめておきます。
教育委員会に気を遣わないで大胆な教育改革をしても良い
静かな学校になっちゃっているイメージがある。教育委員会に気を遣わず、若手の先生方の熱意、パワーでやってもらいたいなって思う。命に関わること以外であれば弾圧するということはしない。とにかく自信を持ってもらればって思う。
このように言っていました。
コロナが増えてから、学校に対する苦情、苦言が多く教育委員会に寄せられているようです。
でも、学校側も一生懸命、よく考えて行事とか実施しているよね?保護者も冷静によく考えれば分かるよね?と思っているものも多いそうです。
先生たちが「せっかくいろいろ考えたのに…」ってくたびれないように、本当にただのクレームじゃないなって物に限定したりして、情報を全部学校に配らない工夫をしているようです。
だから、このようなクレームや、教育委員会からの声に負けないで欲しいと教育委員会の人自身が言っていました。
本当に大事なことは現場から起こる
基本的に改革は教育委員会がするのではなく、学校現場から起こるものだと言っていました。
- 学校を支えているのは校長でも教頭でもなく、学級担任の先生。
- リスクは考えるから出現する。まずは果敢に挑戦する学校経営を!走りながら修正する
- 身近な大人である学校の先生が笑顔でいること。これに勝る教育環境はない!
- どこを見て、教育活動を計画、実践しているか?子どもたちの目を見て行う
- 自分も学校経営に参画しているという自負をもつ。若い先生の力がいま、必要。
この5つの事柄をあげてくれました。このどれもが大事なことだと思います。
教育委員会にいた立場から思うことは中立的な立場というのは板挟みになって、どれもを大切に考えなければならないので苦しく動きにくいものです。
逆に学校側から「こんな風なことをしたいんだ!」って言うと気持ちが分かって教育委員会が動きやすくなると思います。
だからこそ、まずは現場からの声を伝えたり、見せたりすることが大切かなと感じます。
学校が教育委員会に望んでいること
学校を支援する立場として入っていて、教育委員会に対して本当に伝えたいことをまとめます。
端末導入の支援よりも人として寄り添う丁寧な支援をする
1つ目は研修などよりも、その現場にあった個別的で寄り添った対応をして欲しいということです。
教育委員会は研修などを行っていますが、現場の「分からない」という距離を無視して一方的な研修になりがちです。
さきほどの研修のように実際に端末が来ていないのに研修を行って、現場が使えない状態のまま、「やれやれ」って煽り立てるのは非常に良くない手法だと思います。
教育委員会の実績を外部に見せるのは導入率ですが、学校現場として最も大事にしているのは活用率です。
上記は令和元年のデータなので、GIGAスクールが導入される前の状況ですが、導入されたものの放置されていると感じている方は多いようです。
先生たちは使いたくても使えないというジレンマに陥っているので、使いたくないわけじゃないのです。
僕が教育委員会にいた時は、電話があったらすぐに飛んでいき、分からないことは「何度でも聞いてください」と言ったり、分からないことはありませんか?って何度も呼びかけたり、現場にでかけた時に困ってると察知したら手を差し伸べたりしました。おかげで活用率が劇的に上がりました。
現場との心の距離を作らない
2つ目は学校を監督する立場で関わらないことです。
教育委員会は教員から教育委員会に入った指導課と、市役所の事務員として教育委員会に入った総務課、生涯学習課などがあります。
この時、気をつけたいのは市役所の事務員として入った方です。
現場の現状を知らないので、あくまでも『監督する立場』として接しやすく、学校の先生を下に見る傾向がとても強いです。
- 学校の先生は本当にしょうがないことばかりするな
- 学校の先生はちょっと特殊な人だから
- 業務が忙しい時にトラブルを起こすなよ
という言葉が無意識に出てくるようだと、その監督的な立場は先生たちに見抜かれます。そして一定の距離を置かれて、本音が出なくなってしまうのです。
面倒くさいとか思わず、会えて嬉しい!とか、助けることが仕事とか、困っていることや、悩んでいることをただ聞くとか…そんなことをやったり言ったりしているうちに本音を話してくれるようになります。
先生たちも同じ人間なのです。
現場というものを理解していないからこそ、支援する立場でいることを忘れないようにしてください。
管理職ではなく、担任の先生と直接話す機会を作る
3つ目は本当に困っているのは担任の先生ということです。
教育委員会はその特性上、校長、教頭、教務主任、事務員と関わることが多いです。
しかし、管理職の人たちは校務を担当することがほとんどです。
ICTにしろ、授業にしろ、教育委員会が整備したものを使う人達は担任の先生が非常に多いです。そして、その担任の先生たちが使い方が分からず、空き時間もなく、一番困っていたりします。
僕の場合は、放課後に各学校を巡回し、「困ったことがあったら聞いてください」と、ただ職員室に2時間いるという時間を作りました。この時にものすごいたくさんの質問をされ、劇的に校務改善しました。
だからこそ、大事なことは担任の先生に対して「何か困ってることはありませんか?」と聞くシーンを作っていく努力が大事かなって思います。
教育委員会も学校も人として接することが大事
教育委員会と学校の関係性を改善する鍵は『人として考える』こと。
学校の先生は物や、駒ではありません。同じ人です。
ただ研修をやったから、道具を用意したから、やれと言ったから…でイキイキと活動し始める人はいないのです。
だからこそ同じ人なんだと思い、できない理由を真摯に聞いて、関わり方を変えていくと本当に望んだ結果になります。
耳の痛い話だったかもしれませんが、学校との関係性を良くしたいと考えているのであれば、ぜひ教育委員会としての関わり方の改善をしてみてはいかがでしょうか?